下平喜博さん(東栄町)

hanwood

ヒトと自然がひとつになるものづくりで新たなカルチャーを

「ごく自然と丸木舟をつくっていた」―—。下平さんはそう語る。「運命に後押しされた」と。

下平さんは、工業高校を卒業後、社寺建築をする宮大工や在来工法の大工としてキャリアを積んだ後、教育の道を志し、特別支援学校教員免許を取得。障害を持つ子供の教育に携わった経験を持つ。木や人と関わってきたその経歴の中で、下平さんは木も人も型にはめることの理不尽さと、ありのままの個性を尊重することの大切さや可能性を感じるようになったと言う。そして、下平さんはクセや個性が強く、材木としては劣等生とされる欠点のある木を利用し、手彫りで丸木舟をつくるようになった。「東栄町には木を存分に使える環境と起業を後押ししてくれる人との出会いがあり、職人と教育者経験をいかした起業を決意しました。屋号『hanwood』は手「hand」と木「wood」を組み合わせたもの。つまり、人と自然との融合を意味し、自分の思いをすべて込めた」と下平さん。

昨今、人と自然の共生が叫ばれ、アウトドアブームも盛り上がっているが、下平さんの願いは、人の都合で自然を利用するのではなく、人が自然に寄り添い、ひとつになること。その理想に近づけてくれるのが丸木舟だと言う。「自然の中でのアクティビティは、自然の厳しさを征服することで高揚感を得るものも多いですが、丸木舟は力尽くでうまく乗りこなすことは難しいんです。リラックスし舟に寄り添うことで、舟と人はひとつになり、舟がまるで体の一部になったかのように自由自在に操られるようになる。常にアクティブで強者が上手に乗れるとは限りません。子どもだったり、自閉症の人のほうが乗りこなせたりします。丸木舟は多様性を受け入れ、人を対等にもしてくれるのです」。

その丸木舟をフラッグシップに、『hanwood』では、東栄町発のウォーターレジャーの創出と、山の恵みを無駄なく生かしたヒトと地球が同期するものづくりを実践している。下平さんは、手軽に持ち運びできる丸木舟で河川のレジャーエリアとコンテンツの拡大を図ると共に、本来なら用途のない木の個性を生かした製品をつくり提供することで、木材の新しい利用価値の可能性と、木も人も多様性を受け入れられる世の中にしたいとの思いを発信したいと考えている。さらには、縄文時代の暮らしをお手本にし、環境に負担をかけない天然素材だけを使った持続可能な道具、食事、過ごし方を実践するアウトドアのスタイル“jomon camp”の提案を通して、無駄がなくスマートで新しいアウトドアレジャーを呼びかけていくつもりだ。

 

『hanwood』

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